と題し、2016年5月12日午後7時よりカワイ表参道「パウゼ」で、当協会主催(カワイ音楽協会協賛)による若手支援コンサートが開催されました。(入場者総数114名)
出演者は、小玉友里花(S)、種谷典子(S)、杉山由紀(Ms)、又吉秀樹(T)、堺祐馬(Br)、野村光洋(Br)、井上紘奈(Pf)、泉翔士(Pf)の若手歌手およびピアニストの皆さんのほか、プロデューサーの井上雅人さんが、司会および賛助出演として参加されました。
演奏曲目は、
《ドン・パスクアーレ》 より<用意はいいわ>(小玉、堺)
《ラ・ファヴォリータ》 より <私のフェルナンド>(杉山)
《愛の妙薬》より <20スクード!> (又吉、野村)
《カプレーティとモンテッキ》 より <ああ!僕のジュリエッタ>(小玉、杉山)
《清教徒》より<あなたの優しい声が>(種谷)
《リゴレット》<嵐が来るな> (種谷、井上雅、堺)
《シモン・ボッカネグラ》 より<ああ、地獄だ! アメーリアがここに!>(又吉)
《仮面舞踏会》より <お前こそ魂を汚す者>(野村)
<皆それぞれに一つの恥辱>(野村、井上雅、堺)
<どんな衣装か知りたいだろう>(小玉)
《ドン・カルロ》より<カルロよ、聞いて下さい... 私は死にます>(堺)
《ラ・トラヴィアータ》より <あの日僕は幸せでした> (種谷、又吉、井上雅)
昨年同様、前半は、ヴェルディ以前のベル・カント・オペラの名曲で構成されました。
《ドン・パスクワーレ》は、コンメーティア・デッラルテに淵源を持つ典型的なオペラ・ブッファ、《愛の妙薬》も抒情劇の側面も持ちながらもやはり喜劇的内容で、ヴェルディがどちらかというと苦手にしたジャンルですが、歌唱技術という面ではヴェルディ作品を歌う上でも基礎となる大切な要素をもっている作品群です。出演の皆さんは、少なくともベル・カントの発声と歌唱技術においては、優れたものをみせてくれました。
《ラ・ファヴォリータ》は《ランメルモールのルチア》と並んで、人間ドラマを劇的に表現したヴェルディに直接連なる先行作品といえましょう。その中でも<私のフェルナンド>はメッゾ・ソプラノのためのアリアとしては、ヴェルディの《ドン・カルロ》でエーボリ公女が歌う<呪われしわが美貌>と並ぶ人物の心情を深く掘り下げた名曲です。杉山由紀さんはメッゾらしい陰影に富む豊かな声でこの特徴的な美しいメロディをじっきり聴かせてくれました。
第1部後半の2作品は、天才的メロディストであったベッリーニ特有の美しいカンタービレで聴かせる珠玉の名作ですが、オーケストラや合唱を含めた総合的な音楽劇として劇的な表現を追求したヴェルディにとっては、まさに改革の対象とすべき形式的なオペラであったともいえます。美しいメロディを書く能力が高いという点では同じメロディストであったヴェルディとはどこが違うのか。比較対象とする面白い企画ではあったのですが、ピアノの伴奏によるアリアや重唱だけを聴いていたのでは、そこのところはよくわからなかったかもしれません。
後半のヴェルディの部では、《リゴレット》からは幕切れ近くのジルダ、スパラフチーレ、マッダレーナによる三重唱、《仮面舞踏会》からは第3幕第1場のレナート・トム・サムエルによる三重唱、《ラ・トラヴィアータ》からは第1幕前半のヴィオレッタとアルフレードの出会いの場面の二重唱など、アンサンブルの選曲が通常演奏会でとりあげられる箇所とは違う部分であった点に面白さを感じました。このようにあまり有名でない箇所をとりあげても、音楽に全く緩みのない劇的な場面となっていることに、あらためてヴェルディの凄さを認識できるものであったと思います。
一方、ソロのアリアに関しては、若手にとってはチャレンジングな曲目であっただけに、ベル・カント・オペラに比べると声楽技法よりも様式感や表現力が求められるヴェルディを演奏することの難しさをあらためて感じさせた面もありました。しかし、こうした場を提供するのがこの企画の目的ですから、聴衆からは暖かい声援の拍手がおくられました。
そして、最後はアンコールとして若手歌手全員による<乾杯の歌>(《ラ・トラヴィアータ》より)で楽しく締めくくられました。
さらに、これも恒例となった会場全員での<ゆけ、わが想いよ、黄金の翼にのって>(《ナブッコ》より)の大合唱。本来は指揮者である泉翔士さんが「本業」に戻って棒を振ってくださり、一同大満足のうちにお開きになりました。 (Simon)


