会場は、2015年11月にもサロンコンサートを行った北区の旧古河庭園内にある大谷美術館。日本近代建築の父といわれるジョサイア・コンドル最晩年の設計になる大正ロマンあふれる洋館で、本年がちょうど竣工100周年にあたります。その響きのよい食堂に満席となる75名の聴衆を集めて行われ、コンサートはたいへん好評のうちに終了しました。全面的なご協力をいただいた公益財団法人大谷美術館の皆様に感謝いたします。

この日とりあげたのは《イル・コルサーロ(海賊)》。1848年、ヴェルディ35歳の時にトリエステで初演された13番目(改作の《イェルサレム》を除くと12番目)の作品です。
演奏していただいたのは、コッラード役のテノールが澤崎一了さん、メドーラ(ソプラノ)が藤野沙優さん、グルナーラ(ソプラノ)が別府美沙子さん、セイド(バリトン)が原田勇雅さん、ピアノが高島理沙さん。歌手の皆さんは、二期会、藤原歌劇団などに所属する新進の若手実力派。あまり演奏機会のない曲目にチャレンジしていただきましたが、プロのコレペティトゥアである高島さんの協力を得て、声、テクニックともしっかりした安定感のある見事な演奏を聴かせてくれました。
作品紹介は、当協会常務理事の武田(筆者)が行いました。
従来《イル・コルサーロ》は、「《アルヅィーラ》を除けば、ヴェルディによって書かれた最低のオペラである」というフランシス・トイの言に代表されるように多くの評論家、伝記作者、音楽辞典などから低くみられてきました。これに対して、古くはチャールズ・オズボーン、最近では永竹由幸、高崎保男などの各氏が、この作品に散見される新しい試みや美しいメロディーには無視するには惜しいものがある、とされており、筆者もこの考え方に賛同するので、今回この作品をとりあげたのです。また昨年開催された第16回ヴェルディ・マラソンコンサート「孤独な魂、革命の年」の続編の意味もありました。
その「無視するには惜しい」部分を素晴らしい実演のおかげで十分に味わっていただける会になったと考えております。 (Simon)