2021年09月20日

【20周年特別企画】ヴェルディ・アンケートの結果について

遅ればせながら、2020年12月に発行したVERDIANA43号に掲載した、会員アンケートの結果を掲載します。
掲載記事は、2002年と2010年の結果も併載して、この間の会員の好みの変化もわかるようにしました。
ここでは、紙面の都合から、今回(2020年)のアンケート結果のみを掲載します。
1. 好きなヴェルディ作品(3つあげてください)
この質問への白紙回答は全くありませんでした。(2票しか投じられなかった方が2名おられたので、投票総数は94票です。)今回も「3つに絞るのは不可能」といった苦情(悲鳴?)も多々ありながら、あえて選んでいただいた結果です。
第1位 《ドン・カルロ》(15票、以下同じ)
第2位 《シモン・ボッカネグラ》(12)
第3位 《リゴレット》《イル・トロヴァトーレ》《ラ・トラヴィアータ》(10)
第6位 《オテッロ》(9)
第7位 《運命の力》(8)
第8位 《ナブッコ》(5)
第9位 《アイーダ》、《ファルスタッフ》(4)

今回、以下の順位は、2票が《マクベス》《仮面舞踏会》《レクイエム》、1票が《エルナーニ》でした。《ドン・カルロ(ドン・カルロス)》は3回連続の第1位。やはりメッゾ、バリトン、バスという低音部の名アリアが揃っており、合唱やアンサンブルなどヴェルディの特質がよく出ている作品ということに好みが集中したのでしょう。 
2位には、人気の中期三部作を押しのけて、初めて《シモン・ボッカネグラ》が入りました。後の質問の回答から判断しますと、1981年のスカラ座来日公演や1976年NHKイタリア・オペラ公演でのカップッチッリとギャウロフの名演が忘れられないというオールド・ファンに加えて、今世紀に入ってからのレオ・ヌッチの活躍がこの渋いオペラの人気を支えていることがうかがわれます。
あくまで好みの問題ではありますが、決して上演回数が多くはないふたつの傑作が1位、2位を占めたところに、当協会らしさが出たといっても過言でない気がします。

2.好きなヴェルディ歌手(3名まで)
この質問には、1部白紙回答もずいぶんありました。
(1)ソプラノ 
第1位 マリア・カラス(8)
第2位 ミレッラ・フレーニ(7)
第3位 アンナ・ネトレプコ(5)
第4位 ディミトラ・テオドッシュウ、バルバラ・フリットリ、リュドミラ・モナスティルスカ(4)

今回、以下の順位は、3票:R.テバルディ、E.グルベローヴァ、2票: E.スリオティス、R.スコット、N.デセイ、M.レベカ、1票:小林厚子、K.テ・カナワ、A.トモワ・シントウ、K.リッチャレッリ、M.デヴィーア、D.デッシー、A.ゲオルギュー、F.チェドリンス、P.チョーフィ、T.イヴェーリ、F.ドット、D.ダムラウ、S.ヨンチェーヴァ、M.アグレスタ、S.ヴァシレヴァ、A.ハルテロス、V.イエオが挙げられました。
マリア・カラスが不動の人気を誇るなか、テバルディやカバリエの名が上位から消え、ネトレプコ、モナスティルスカが出てきたところが今回の特徴です。
前回あたりから、レコードなどの媒体による鑑賞よりも、ナマ演奏の実体験による印象を重視する傾向が大きくなっているように感じられます。
(2)メッゾ・ソプラノ 
第1位 フィオレンツァ・コッソット(13)
第2位 ジュリエッタ・シミオナート(7)
第3位 ダニエラ・バルチェッローナ(5)
第4位 ドローラ・ザジック、アニタ・ラチヴェリシュヴィリ(4)

今回、以下の順位は、3票にアグネス・バルツァ、2票にE.ガランチャとC.バルトリ、1票は、藤村実穂子、谷口睦美、C.ルートヴィッヒ、S.ユリナッチ、E.オブラスツォワ、L.ヴァレンティーニ-テッラーニ、O.ボロディナ、L.ディンティーノ、E.ザレンパ、M.コルネッティ、J.ディ・ドナート、A.スミルノワでした。
メッゾは3名投票してくださった人の方が少ないくらい白票が目立ちましたが、コッソットの人気は変わりませんでした。シミオナートの減少は、ナマでお聴きになった方やレコード中心に鑑賞される方が減っているためと思われます。ラチヴェリシュヴィリが当代のヴェルディ・メッゾとして認知されはじめました。
(3)テノール
第1位 プラシド・ドミンゴ(12)
第2位 マリオ・デル・モナコ、ルチアーノ・パヴァロッティ、フランチェスコ・メーリ(6)
第5位 カルロ・ベルゴンツィ(5)

今回、以下の順位は、4票:F.コレッリ、3票:J.カウフマン、2票:A.クラウス、1票:E.カルーソー、G.ディ・ステーファノ、N.ゲッダ、P.ドヴォルスキー、J.カレーラス、G(J).アラガル、V.ルケッティ、J.クーラ、R.アラーニャ、M.アルバレス、Y.リー、M.ベルティ、S.ポップ、F.デムーロ。
当代現役で複数票獲得しているテノールがメーリとカウフマンのみというのは意外な結果といえるかもしれません。ヴェルディ歌手といえるかどうかは別にして、G.クンデやF.D.フローレスといった大物の名前も挙がりませんでした。
デル・モナコが初回(2002)に比べて大きく得票を落としているのは、そのナマの声を実際に聴いた方が減っていることと関係していそうです。初回の上位はおそらく全員、ナマの声による実感がかなり投票に影響しているものと思われます。
(4)バリトン
第1位 レオ・ヌッチ(18)
第2位 ピエロ・カップッチッリ(11)
第3位 レナート・ブルソン(8)
第4位 エットレ・バスティアニーニ(5)
第5位 アルベルト・ガザーレ(4)

今回、以下の順位は、3票がT.ゴッビ、2票:A.マエストリ、C.アルバレス、L.テジエ、1票:須藤慎吾、上江隼人、伊藤武雄、D.フィッシャー・ディースカウ、A.プロッティ、S.ブルスカンティーニ、L.サッコマーニ、T.ハンプソン、R.フロンターリ、D.フヴォロストフスキー、S.キーンリーサイド、C.アルバレス、J.サマーズ、G.ガグニーゼ。
さすがに、ヴェルディの特徴であるバリトンについては、歌手部門でも一番総得票数が多かったと言えます。上位の顔ぶれにあまり変化はありませんが、ヌッチが順位をあげ、バスティアニーニやカップッチッリの得票が減っているのは、やはりナマで聴いた方が減ってきていることと関係があるかもしれません。現役の中でガザーレが上位に食い込んだのは、当協会の講演会に出演いただいたことも影響していそうです。一方で、最近惜しまれつつ亡くなったフヴォロストフスキーに1票しか入っていないのは、日本ではヴェルディのオペラ公演にほとんど出演していないことが大きいといえましょう。レオ・ヌッチの人気がダントツであることも、1993年ボローニャ歌劇場来日公演《リゴレット》以降、最近にいたるまでの彼の大活躍を反映しているものと考えられます。
(5)バス 
第1位 ニコライ・ギャウロフ(12)
第2位 ルッジェーロ・ライモンディ(5)
第3位 ロベルト・スカンディウッツィ、ルネ・パーペ(4)
第5位 フェルッチョ・フルラネット(4)

 今回、以下の順位は、3票がC.シェピ、I.アブドラザーコフ、2票:J.ファン・ダム、M.ペルトゥージ、D.ベロセルスキー、1票は、妻屋秀和、小島琢磨、K.モル、ジョン・ハオ、ペン・カンリャン、S.レイミー、C.コロンバーラ、V.コワリョフ、M.スポッティ、G.プレスティア、R.タリアヴィーニ、G.グロイスベックの名前が上がりました。
 メッゾと同様白紙が多く全体の得票数が少ない中で、他の声部に比べると新しい名前がたくさん挙げられました。ギャウロフが不動の1位を確保したほかは、シェピの得票が減り、クリストフの名前が無くなったところが特徴的です。これもレコード鑑賞よりもナマ演奏の印象重視の方の回答が多かったことを反映していそうです。

3.好きなヴェルディ指揮者

第1位 リッカルド・ムーティ(19)
第2位 クラウディオ・アッバード(6)
第3位 ネッロ・サンティ、アントニオ・パッパーノ、アンドレア・バッティストーニ(4)

 今回、以下の順位は、3票がC.クライバー、F,ルイージ、2票:A.トスカニーニ、H.フォン・カラヤン、C.M.ジュリーニ、1票:T.セラフィン、G.ガヴァッツェーニ、F.モリナーリ・プラデッリ、L.ガルデッリ、J.レヴァイン、D.オーレン、R.シャイイー、M.チョン、C.リッツイ、R.フリッツァ、G.ドゥダメル、M.マリオッティと新旧多彩な顔ぶれになりました。
 ムーティが不動の一位。今回は特に2位以下との得票数に差がつきました。若い時から多くの全曲盤録音も行っていたうえ最近に至るまで日本での活動も目立つので、当代ヴェルディ演奏の第一人者というのは衆目の一致するところなのでしょう。一方で、パッパーノとバッティストーニが上位に登場してきたのは、近時の来日公演での活躍が影響していそうです。

4.好きなヴェルディ演出家

第1位 フランコ・ゼッフィレッリ(18)
第2位 ジョルジョ・ストレーレル(6)
第3位 ルキーノ・ヴィスコンティ(4)
第4位 粟国淳、ピエル・ルイジ・ピッツィ、デヴィッド・マクヴィガー(2)

 今回、以下は1票で、H.フォン・カラヤン、L.カヴァーニ、J.P.ポンネル、G.ヴィック、H.ブロックハウス、J.F.シヴァディエ、J.C.デル・モナコ、N.ハイトナー、H.デ・アナ、W.デッカー、M.マリトーネ、アルノー・ベルナール、C.ロイ、S.コッポラ、M.メイヤー、P.L.サマリターニ。
 不動の1位のゼッフィレッリと他との差が今回も大きくなりました。新国立での《アイーダ》の舞台を選定理由にあげる方が複数おられました。一方で1票では新しい名前がたくさん挙げられ、各個人で強い印象を受けた舞台が多様化していることがうかがえます。
 2002年にヴィスコンティが18票も獲得しているのは、2001年新国立《ドン・カルロ》(原演出)の印象が強かったものと思われます。(もちろん、カラス主演の1955年スカラ座《ラ・トラヴィアータ》の伝説や映画監督としての印象もあるでしょうが。)今回は《シモン・ボッカネグラ》を推す人が多く、1981年スカラ座来日公演の名舞台の記憶の方が勝り、ストレーレルが上位にきたと思われます。
 なお、2010年のアンケートでは、演出家についてはひとり1票でした。今回は3票ですが、それでもコンヴィチュニーの名前が消えたのは、2008年の《アイーダ》公演の強烈な印象が既に薄れつつあるということでしょうか。

このほか、「好きな役柄」「好きな公演」「ヴェルディ以外の好きなオペラ」「無人島に持っていきたい音楽作品」などの設問や自由記述欄もありましたが、あまりにも多岐にわたるのでここでは割愛します。
是非、VERDIANA43号をご覧ください。

posted by NPO日本ヴェルディ協会 at 16:36| Comment(0) | オペラ考