2015年09月16日

小畑恒夫氏講演会《マクベス》の魅力と楽しみ方(9月13日、東京文化会館中会議室)

 ヴェルディの初期(1847年初演)に属するオペラながら、革新的な作品と評価が高い《マクベス》。大きな理由は、ヴェルディが敬愛するシェイクスピアの作品を、初めてオペラ化したところにあるといえるでしょう。初演から18年を経て大幅に改訂されたことも、この作品をいっそう複雑で、魅力的なものにしています。
 去る9月13日、日本におけるヴェルディ研究の第一人者で、ヴェルディに関する著書も多い小畑恒夫氏をお迎えし、《マクベス》の魅力を語る講演会が開催されました。
 「ヴェルディ・オペラの初期でありながら突出した作品」だと《マクベス》を評する小畑氏は、「《マクベス》は改訂されて高く評価されるようになったと言われることがあるが、最初から傑作だった」「初演版から、新しいことをすべて取り込む意欲があった」という点を強調しておられたように思います。よく言われるように、《マクベス》は「美しい声で歌う」ことを否定したオペラですが、「新しさ」の象徴として、そのことももちろん触れられました。
 講演会では、物語、音楽の構成、音楽解説を一覧にまとめた表が配布されましたが、そこでも明確になったように、《マクベス》は「景(Scena)」が多いオペラです。それは「シェイクスピアの原作がそうだから」。「景」が多いということは、イコール「演劇的」。《マクベス》は、声の美よりドラマを優先させた演劇的な作品ですが、そうなることは、シェイクスピアを下敷きにした時点でわかっていたことでした。
 《マクベス》を作曲するにあたり、ヴェルディは自分でまず散文の台本を書き、それを台本作者のフランチェスコ・マリア・ピアーヴェに回して韻文にしてもらいました。ピアーヴェはヴェルディに忠実な台本作者として知られており、その意味で適役だったようです。このあたりに、「ヴェルディのオペラに対する考え方が現れている」と小畑氏は指摘します。ヴェルディは、第4作の《エルナーニ》くらいから、「原作に忠実であること、そうすれば間違いがない」ということを主張していました。オペラの材料にこだわったのは、その哲学のあらわれでしょう。
 《マクベス》はフィレンツェのペルゴラ劇場で初演されましたが、それはこの劇場が《魔弾の射手》など、幻想的なロマン派オペラを上演していたこともあったなど、初演に関する興味深い話も披露されました。
 音楽面については、第1幕のダンカン王の行進で聞こえる行進曲の「田舎っぽさ」が、妙な浮遊感を演出している、つまり意識して作られていること、第2幕フィナーレのバンコの幻影出現の場面での、定型を逸脱した劇的な音楽など、ヴェルディの斬新な工夫がいくつかあげられました。
 なかでも興味深かったのは、改訂によって大きく変えられ、マクベスのアリアから〈賛歌inno 〉 に書き換えられた全曲の幕切れについてです。小畑氏は、この結末の改訂によって、本作品が「小さな個人の物語にとどまらず、人間の運命、人類としての大きな物語の終わりを見せるものになった」と主張されていました。
 改訂によって「人間の運命を終わらせる壮大な物語」になったという《マクベス》。そこには、作曲家ヴェルディの進歩も反映されているのかもしれません。
 なお当日は、以下の2点の映像が使用されました。
リセウ大劇場ライブ、カルロス・アルヴァレス(マクベス)、マリア・グレギーナ(マクベス夫人)、ブルーノ・カンパネッラ指揮、フィリダ・ロイド演出
チューリヒ歌劇場ライブ、トーマス・ハンプソン(マクベス)、パオレッタ・マッローク(マクベス夫人)、フランツ・ウェルザー=メスト指揮、デヴィッド・パウントニー演出


(Amneris)


posted by NPO日本ヴェルディ協会 at 10:36| Comment(0) | 講演会報告
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