2015年06月21日

崎保男先生懇話会(6月24日)

『ヴェルディの全オペラ解説』(崎保男著、音楽之友社)は、第1巻(《オベルト》から《マクベス》まで)が2011年1月、第2巻(《群盗》から《ラ・トラヴィアータ》まで)が2012年7月に発行されたあと、待望の完結編第3巻(《シチリアの晩鐘》から《ファルスタッフ》まで)がついに2015年4月30日付で上梓されました。それを記念する会は、崎先生のご希望により「講演会」ではなく「懇話会」として、6月24日の午後6時30分から、上野の東京文化会館4階大会議室で行われます。当日は会場にて、この新刊および第1巻、第2巻の新訂版の販売も行う予定ですので、お楽しみに。
 日本語によるヴェルディの全作品解説は、すでに永竹由幸先生の『ヴェルディのオペラ 全作品の魅力を探る』(2002年2月音楽之友社)がありますが、こちらは437頁の1巻本。各作品について「作曲の経緯」「原作の歴史的背景と台本」「楽曲分析」の三部構成で押さえるべきところは押さえてありますが、随所に独自の解釈が「永竹節」ともいえる語り口で散りばめられているところに特徴があります。
それに対して、この崎先生の著書は、「ヴェルディにおける本作品の位置と意義」、「成立と初演」、「原作と台本」、「ドラマのあらすじ」(シノプシス)、「楽曲解説」という5部構成で詳しくオーソドックスな内容で、オペラ公演やレコード・ヴィデオを鑑賞する前後の手引きとして使えるなど、初心者にも親切な体裁となっています。格調高い文章、学術的な内容と相まって、まさに研究者から一般愛好者まで必携の「教科書」といってよい著作だと思います。
筆者のように、LP時代の豪華装丁全曲盤でオペラを聴き始めた世代にとっては、あの大判のライナーノーツに詳しく書かれた「作品解説」がまさにオペラの世界への手引書でした。その著者として永年にわたり健筆を揮ってこられた崎保男先生が、それらの原稿をベースとしつつも、最新の研究やクリティカル・エディション・スコアの成果も取り入れられて大幅な改訂・推敲を経て完成された本書は、ヴェルディ・ファンとしてまさに待望の書といえます。
初期作品10曲についての解説を収めた第1巻が293頁、中期作品9曲分の第2巻が255頁であるのに対し、後期9曲分の第3巻が340頁(巻末の年表、索引等を除く)と大部となっているのは、《オベルト》初演から《マクベス》初演までが8年、《群盗》初演から《ラ・トラヴィアータ》初演までが6年しか経っていないのに対し、《シチリアの晩鐘》初演から《ファルスタッフ》初演までは実に38年もの歳月が経過していることも関係していそうです。
巨匠となったヴェルディがひとつの作品にじっくり腰を据えて取り組むようになったために「作曲の経緯」で書くことが増えたこと、そして、作品そのものの内容が濃くなって解説すべきことが増えた、ということがあるでしょう。
また、ヴェルディのオペラ作品は、通常、改訂版の《イェルサレム》《アロルド》を入れた場合で28作品と数えますが、実は《マクベス》《シモン・ボッカネグラ》のように後年大幅改訂を加えたもの、《運命の力》《ドン・カルロ》のように外国で初演を行ったあとでイタリア公演版を改訂して作ったもの、逆にパリ公演用にバレエを付け加えたもの、などいくつものヴァージョンがあり、しかもこれらの改訂の大半は《シチリアの晩鐘》よりも後の時期に行われています。さらには、オペラと並ぶ大傑作《レクイエム》もこの時期にあたります。
つまり、第3巻で書くべきことはもともと多かったのです。「作品解説」ですからといって、10作品、9作品、9作品とほぼ等分の3巻編成にした当初の方針そのものがちょっとペース配分を間違えていた、と崎先生ご自身もちょっぴり後悔されていたのではないか、などと勝手に想像しています。
とにかく、既にファルスタッフ完成時のヴェルディの年齢(79歳)を超えるご高齢の崎先生が、最後まで緩むことなく、この名著を完成されたことは本当に素晴らしいこと。お祝いの言葉を申し述たいと思います。
                                    (Simon)
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2015年05月20日

NPO日本ヴェルディ協会若手歌手支援企画第2回 若手歌手の協演〜ベルカントからヴェルディの人間ドラマへ〜

2015年5月14日(木)にカワイ表参道「パウゼ」で標記の公演が行われました。
第一部開催に先立ち、ヴェルディ協会の大嶋理事が開催の趣旨などをご説明。その後、プログラムには記載のなかった《セヴィリアの理髪師》のフィガロのアリア<俺は町の何でも屋>を歌いながら、司会者の井上雅人が颯爽と登場しました。このコンサート開催にあたって若手歌手陣の先輩格にあたる井上はプロデュース、司会、賛助出演からチラシやプログラムのデザインまで、まさにフィガロのような「何でも屋」として活躍したことをアピールする粋な演出です。
第一部は「ヴェルディ以前の作品より」と銘打って、《セヴィリアの理髪師》から平山莉奈(メソ・ソプラノ)による<今の歌声は>と後藤春馬(バス)による<かげ口はそよ風のように>、《愛の妙薬》から吉田連(テノール)、高品綾野(ソプラノ)、山本悠尋(バリトン)による三重唱<トラン・トラン>と佐藤優子(ソプラノ)、後藤春馬による二重唱<なんという愛情>そして吉田連による<人知れぬ涙>が演奏されました。
ヴェルディに先行するベルカント・オペラ時代(19世紀前半)を代表する作曲家ロッシーニとドニゼッティによる喜劇的作品から、出演者各人の声種の特質を生かした曲が選ばれ、まずは素材の味を生かす色とりどりの洒落たオードブルが供されたという感じです。
そしてメインディッシュとなる第二部では、ヴェルディのオペラの一場面が通しで提供されました。
まずは《リゴレット》第2幕からリゴレットのアリア<悪魔め、鬼め>から幕切れの二重唱<お父様!...いつか思い知らすぞ...>までを、ジルダ:高品、リゴレット:山本、モンテローネ:後藤、門衛:井上で演奏。
次に、《ラ・トラヴィアータ》第3幕より、ヴィオレッタのアリア<さようなら、過ぎ去った日々よ>から二重唱<パリを離れて>を経てフィナーレまでを、ヴィオレッタ:佐藤、アンニーナ:平山、アルフレード:吉田、グランヴィル:後藤、ジェルモン:井上で演奏されました。
アンコールは《ラ・トラヴィアータ》第1幕の<乾杯の歌>を全員で。そして最後は、会場の聴衆も参加して《ナブッコ》の<行け、わが想いよ、黄金の翼にのって>の大合唱で大団円となりました。
若手とはいえ、すでにさまざまなステージで活躍するプロ歌手たちですから、全員が小ぶりの会場では十分すぎるほどの声の響きと的確な技術、そして演技力を発揮してくれました。企画の狙いどおり、前半のベルカントのオペラ・ブッファとの対比が鮮やかで、ヴェルディの音楽の特質、すなわち、メロディーの美しさ、わかりやすさはベルカントの伝統を受け継ぎながらも登場人物の人間的な苦悩を深く抉り出す劇的な強さがよく伝わってくるステージであったと思います。その劇的な表現の大事な要素であるオーケストラ部の動きをピアノで演奏してくれた井上紘奈と黒岩航紀も見事でした。
本来なら大劇場で衣装つき、オーケストラつきで演奏されるべきオペラが、こうしたサロンコンサート形式で演奏されても、ヴェルディ作品から受ける感動を十分に味わうことができるということが実感できる演奏会であったと思います。
裏方を務めた協会関係者を含めてこの企画に関わった皆様に感謝いたします。
                                  (Simon)※
 ※本ブログは一会員である筆者の個人的感想を述べたものであり、
NPO日本ヴェルディ協会の公式見解を表明するものではありません。
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posted by NPO日本ヴェルディ協会 at 00:04| Comment(0) | イベント報告